「三題噺」部屋

雪、団扇、花火 - 蓑坂

2010/08/22 (Sun) 21:15:32

第二十五回目のお題らしいです。

Re: 雪、団扇、花火 - 蓑坂

2010/08/23 (Mon) 21:10:16

「花火?」
「そう花火。余ってるのがあるんじゃないの?」
「まあ、あるけどさ……」
「じゃあ、よろしくね。7時に私ん家に集合ね。」
「はいはい」
「あ、団扇も持ってきてね」
「団扇?絶対使わないだろ」
「使わなくてもいいの。雰囲気作りが大事なんだから」
「あっそ。午後7時にお前ん家な。分かった」
そう言って俺は電話を切った。
「団扇なんて言ってたかな?」
とりあえず、去年の余りの花火を探す。

今日は、千衣の命日だ。
命日と言っても、もう10年以上前のことになるが……。
あの時仲が良かった人とも、ほとんど会ってない。
ただ、千衣繋がりで仲が良かった、俺を含めてのグループはいまだに会っている。
そして、千衣の命日にはこうして集まるのだ。
さっき電話をかけてきたのが、俺たちのグループのボス的存在で、毎回無茶な要求をしてくる。

「あった」
花火と、ついでに団扇も見つけた。
千衣は、夏が好きだった。
よく、皆で夏祭りに行った。
必ず帰りには花火をした。
懐かしい記憶。

6時30分に家を出た。
いい歳した大人が、団扇と花火を持って歩いて行くのも……と思い、車に向かう。
「……そういやあいつの家って、車置けないんだっけ?」
……車に乗るのをあきらめ、自転車に乗る。
6時30分にもなると、もう空は暗い。
ライトをつけ、家を後にした。

「遅い」
「遅くない。まだ6時55分だ」
机に乗っている時計を指さしながら答える。
「この時計、実は10分遅れてるのよ」
「紛らわしいことを……」
俺は、花火と団扇が入った袋を取り出し渡す。
「ありがと。でも、よく持ってきたねー。花火はともかく団扇まで……。まぁ、千衣の命日だからね」
それから少し経って、みんなが集まった。いよいよ花火をするらしい。
「団扇いらねぇだろ」
「誰だよ持ってきたの」
そんな声が聞こえるが、完全無視だ。
今日の朝から気になっていたことを聞く。
「なぁ、何で花火なんだ?こんな季節に。確かに、千衣は花火好きだったけどさ」
「あれ?聞いたことなかった?」
空から、白い綿のようなものが降ってくる。
数時間で地面を真っ白に変えるだろう。
「雪の中で花火をする。千衣が自分から話してくれた最後の夢だよ」
ひらひらと舞う雪の中で、千衣が笑ったような気がした。

空へ - Michiya

2010/08/26 (Thu) 00:33:37

空へ。

遠くで聞こえる花火が、うるさくて仕方がない。
夏が勝負、という先生の声が遠くでちらつく。
僕の志望校は、自分の今の学力よりいくつか上で、夏になった今でもA判定が出ないでいる。
確かに焦っていた。

部屋のエアコンは壊れている。
扇風機が頬に定期的に当たる。少し伸びた髪の毛が頬をかすめ、煩わしい。
髪の毛は長く切っていない。
元々短かった髪の毛が、ここまで伸びたのは初めての経験だ。

妹に冗談でもらったヘアピンがここまで活用するとは思わなかった。意外にも涼しく、少しだけ煩わしさから解放される。
だが、ヘアピンだけでは留めきれなかった髪の毛が頬をちらつく。

「ちっ…、」

ちっとも進まない。
僕は諦めて、息抜きをすることにした。



「兄ちゃーん、花火凄いよー。」
団扇を振りながら、妹が縁側から顔を出す。
僕の家は花火会場から近く、家の縁側から綺麗に見えるのがウチのウリだと祖父が、幼い頃毎年のように胸を張っていたのが思い出される。

「…んー。」
僕は生返事を返して、冷凍庫を開けてアイスバーを掴む。
「あ、それ、あたしの!」
「…あいよ。」
食べ物の恨みは怖い。妹のアイスを食べたら、明日、酷い目を見ることは見えていた。
「何食おうかな…。」
どうせなら、このまま祭りに繰り出して、かき氷でもかってやろうか。
「おい、行ってくる。」
「え?」
「祭り。」
「いいの?」
「息抜き。」
「分かった。母さんに言っとくね。」
「おー、よろしく。」
俺はつっかけを引っかけて、祭りのざわめきの中、かき氷を探しに行った。

「…なんでないんだ。」
割と近くにあるものだと思っていたが、全く見あたらない。
反対方向へ行けばよかったのか。
「最近はかき氷もねぇのか…?」
ふと、幼い頃祖父と一緒に祭りへ行ったことを思い出した。

「おー、聡史は何がいい?」
「いちごー、」
「いちごか。じいちゃんと一緒だな。」
「うん!いちご、好き-。」
「聡史、いちごには練乳が合うんだぞ。」
「れんにゅー?」
「そうだ。」
かき氷を二つ買い、祖父は店の親父からかき氷と練乳の入った容器を受け取る。
「ほーら、見てみろ。」
一つを渡され、祖父の一つに白い、とろりとしたものがかかる。
「わぁ…!」
「ほら、雪山みたいだろう?」
「わー、すごい!」
「あとな、美味しいんだぞ。」
「ぼくも、ぼくも!」
「おー。」
その日、いつもは妹と二人で半分こするかき氷を一人で食べきった僕は、お腹を壊した。
祭りへ連れ出した祖父は、母に怒られていた覚えがある。

「ふっ…、」
祖父が入院してから、もう半年。
家に帰れなくなった祖父の姿を見たのは、もう三ヶ月も前のことだ。
受験勉強だ、なんだといって祖父の姿は見ていなかった。
あの頃の元気な祖父はもういない。
いるのは、弱り切った、もう一人では立てない祖父の姿。
いつも笑って、元気で、優しくて…ちょっといばってるけど物知りだった祖父が好きだったのに、いつの間にか、祖父は変わっていた。
いや、僕が変わったのかもしれない。

『大きくなったんだな、聡史』

最後に会った日、家族が買い出しに行っていた間、僕は病室で祖父と二人きりになった。
最早、僕は二人きりで祖父と話すような話題もなく、お互いに沈黙が流れる時間が過ぎた。
ほんの少しの間だったと思う。
一階の売店に行った家族が帰ってきたのはすぐなはずなのに、その時間が長く感じられた。
そして、最後、家族が帰ってくるまえに、祖父が言ったのだ。

「え…?何言ってるんだよ、じいちゃん。当たり前だろ。」
「…当たり前か…、それもそうだな。」

祖父が見上げる空は青くて、どうしてか泣きたくなった。



「…じいちゃん、元気してるかな。」
ふと、視線の先にかき氷屋を見つける。
僕はふらふらと、人をかき分けてかき氷屋へ向かう。

「いらっしゃい。」
「…いちごを一つ。」
「ちょっと待ってね。」
練乳は自由にかけていいらしい。
渡されたいちごに練乳をかける。
良いできだ。

「じいちゃん、どうだ。美味そうだろ。」

俺は少し空を見上げて笑った。
多分この空の下、病院から遠くの花火を見ている祖父に伝わるだろうか。

空へ。

ロマンチックゼロの出会い - 科挙

2010/08/28 (Sat) 22:46:22

「ねーねー、パパとママの出会いってなーに?」
などと娘が尋ねてきた。どうやらクラスではやってる話題らしい。
「パパとママの出会い、ねぇ。………花火、かな」
「花火?うわーロマンチックー!」
……。残念ながら娘よ。現実はそんなに甘くは無いんだよ…。しかし、早いもんだ…。

ゴチンッ!
「「?!」」
曲がり角をのんびり歩いていると、だれかと額をぶつけ合って頭に花火が飛んだ。
しばらくして、先に復活したらしい相手が俺に文句をぶちまける。
「ちょ、ちょっとあんた!気をつけてよ!!」
「うるせーな…。あんまり大声出さないでくれ」
と言うか俺歩いてたんだから絶対向こうが悪いだろ。
「お前が走るのがいけないんじゃないか」
「な、なによ!そっちがボーッとしてるのが悪いんじゃない!」
すげー言いがかりだ。…よくよく見たらどこぞの私立の制服じゃねーか。何だって、こんな態度悪い奴がいるんだろう(偏見)。
「フン!次から気をつけなさい!」
そう言い捨てて女は去っていった。おいおい。
「……もー二度と会いませんように」

ところが悪いことは重なるものだ。夜に繁華街を歩いていると出くわした。
しかし、何だか落ち着かない様子で辺りを見回している。
「おい、どうした?」
「ひゃ?!……なんだあんたか。謝りにでも来たの」
「するか!…いや、さっきから何キョロキョロしてんだ」
すると彼女は少し恥ずかしそうに正面の店の棚を指差した。
「あの人形を…い、妹に持って帰りたくて。あの子誕生日なのよ」
…あのファンシーな雪だるまか。今、真夏なんだが。
というかこの態度を見る限り多分、嘘だろう。妹と言うのにどもったりはしないだろうし、ほぼ初対面の俺に「あの子」と言うのはおそらく焦っているからだろう。
「しかし、いい年して店に入るのは躊躇われる、と」
「…え、ええ」
「……今日の侘び代だ。買ってやろうか?」
「え、いいの?!」と、突然抱きついてきた。
嬉しそうにしちゃって、まあ。
「それじゃあ買ってくるから待ってろ」
そういって足早に店に入る。
入り口に合った鏡に映る俺の顔は真っ赤だった。

「それで、それで!?どうなったの!」
娘が団扇でバシバシ叩いてくる。こら、側面は反則だろ。凶暴性は完全に母親譲りだな。
「それで、まあ何度か会うようになって…半年後のクリスマスだったかなー告白されたの」
「うわーお父さんってば意気地なし」
グサッ。…こいつ本当に母親そっくりだな!言われたことと一字一句違わねぇ。
けらけら娘が笑ってるのを恨みがましく見ていると玄関の扉が開いた。
「ただいまー…あら、何してたの?」
「えっとねーパパ「おかえりー。じゃ、ママも帰ってきたしご飯にしようか」
娘が不満そうにこちらを見てくるが、そ知らぬ顔で無視した。
彼女が不思議そうに首を傾げてきたので、けらけら笑っておく。
娘の笑い方は俺似だな、何て思って若気の至りは封印封印。

私(ぼく)の - 加貝

2010/09/05 (Sun) 22:03:47

「ずっと好きでした。付き合ってください。」
「は?」
告白された。それも、学校の人ー下級生や同級生や先生ーにあれこそが理想のお姉さま、通称Best Famaleだと言われている人に。

「あはははは!結局どうしたのよ!?」
「こちらこそなんて言える訳無いでしょうが。」
「ここは女子高よ?同姓カップルなんていくらでもいるわよ。」
一応親友なのだこれでも。そしてそんなこと言われても困る。
「まぁ、返事くらいはしておくべきね。断ったりしたらあんたの命が危ないかもしれないけど!んじゃ私は帰るわ。」
「相談乗ってくれてありがとう。」
心にも無いこと言うんじゃないわよ、と笑いながら親友は去っていった。
1人になる。団扇を扇ぎながらぽそっと呟いた。
「好き…か。」

僕の名前は兵藤京介。まごうこと無き男だ…。
雪が降っていた冬に祖父ちゃんが死んだ。遺言は「あの世で婆さんともう一度雪でも見てくるわ。」というものだった。
そして今、何故かその祖父ちゃんの遺言やら家庭の事情やらで何故か女子高にいる。
という訳で一年前からここにいて幸い誰も気がついていない。
この学校で私の正体を知っているのは理事長と担任だけ。
これなら卒業までやりとおせる、そんなことを思っていた矢先にあの告白だった。
あの人が知っているはずがないのだ。
つまり、普通に考えるならあの人は「兵頭京子」が好きなのだ。
決して兵藤京介が好きであるはずが無い。
でも、もしそうじゃなかったら?
そんな不安を僕はずっと抱きながらベットでごろごろ転がっていた。

「申し訳ありませんが、あなたの想いには応えられません。」
「…そう…ですか。」
翌日告白してきたあの人を呼び出し、断った。
すると、泣きそうな顔をしていたその人が、まるで何かを決心したみたいに私の目を睨んできた。
「…いいんですか?」
「あなたを断ったことが?あなたはすごく綺麗だと思うけどやっぱり女の子同士だ…」
「何を言ってるんですか?私は男の子に恋する普通の女の子ですよ?」
気がついたときには遅かった。僕の顔は信じられないくらい驚きに満ちていて、今から言い逃れをすることなど不可能だった。
「…知っていたんですか?」
「じゃないと告白なんてしませんよ。」
「…僕を脅して何をするつもりなんですか?」
「あら?意外に声が低いんですね。カッコイイですよ?」
「真面目に答えて!!!!」
周りに聞こえちゃいますよ?、とだけその人は僕に注意してから、
「何もしなくてもいいです。」
「何…も?」
「私、北条栞が兵藤京介を心から愛してるって事を知っていればそれでいいんです。」
「…。」
「あ、これからいろんなアタックはしますよ。ただし他の子達が気づかないように…ね」
「…どうして気がついたんですか?」
「やっぱり…覚えてないんですね。」
「おぼえて…ない?」
「私はあなたを知っていますよ。あなたは忘れたようですが。」
「なっ!!?」
「ならこれで失礼しますね。」
「待っ!何時?何処で?どのようにあなたと!?」
「…花火。」
「花…火?」
「じゃあ、また明日お会いしましょう。」
これが兵藤京介とBest Famaleとの出会いだった。

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