「三題噺」部屋

蝋燭、チョコレート、簪(かんざし) - 科挙

2010/07/09 (Fri) 18:59:51

第二十二回目のお題です。

三回忌 - 科挙

2010/07/19 (Mon) 16:20:45

今日は、彼女の三回忌だ。
仏壇の蝋燭を灯して、拝む。それが今日で三年になるわけだ。
あっという間である。

三回忌の会場に赴くとすでに大勢の人がいた。話が弾んでいるのか笑い声がする。
毎年来る度に感じる壁は、また一段と分厚くなった。
今年はとうとう、俺が来ても笑い声がするようになったらしい。
どうやら孫がチョコレートでベタベタにした頬を誰かにふき取ってもらっているのが微笑ましいらしい。
温度差を感じて心の中で彼らに問い尋ねる。もちろん口には出さないが。
なあ、帰っていいか?俺。

粛々と通過儀礼が終わっていく。
しばらくの休憩に入ると1人の男が唐突に立ち上がって俺に耳打ちをしてきた。
「悪い。俺帰るよ。これから仲間と飲み会でさ…」
そういって去っていく男が自分の息子であったことに些か時間が必要だった。
分かっている。あくまでおかしいのは俺だ。
死んでから三年も経てば、皆は日常に忙殺されて全てが薄れる。
思い出も、感慨も、悲しみすらも。
辛いからではなく、処世術のために。そういうものだ。
だが、それでも。
俺は彼女との思い出も。
彼女への感情も。
別れた時の悲しみも。
俺にとっては薄れるものではなく、厳然とそこにあるものだ。

あれは去年のことだっだか。
倉庫の整理をしていた時に誰かが彼女の形見を捨てようとしたことがあった。
もう買って50年になる木の簪。
彼女と祭りに出たときに少ない小遣いをはたいて買った簪だった。
俺はその誰かに烈火のごとく怒って、それ以来いつでも持ち歩いている。
二年が経ち彼女との様々な物が勝手に誰かに捨てられていく中で、形見すら捨てられるのは、御免だった。

皆がいろいろなものを薄れさせていく中で、彼女のことでは俺はまだ自分で手放したものはない。
皆が彼女を忘れていったとしても。息子すら忘れていても、俺は忘れてやらない。
だから俺だけは声高に言ってやろう。まだ、言える。

「お前ら!今日が何の日だと思っている!!」

どこかで彼女が苦笑した気がした。
許してくれ。
その代わり、老いた今になってもはっきりとお前に「愛している」と言えるから。

禁断(笑) - 加貝

2010/07/20 (Tue) 21:56:29

俺の名前は斉藤幸樹(さいとうこうき)。バレンタインデーが嫌いだった。
別に特定の彼女が欲しいわけじゃないけど、貰ってる奴の余裕顔を見るのもむかつくし、貰ってない奴のあの(お前も仲間なんだな)みたいな目がうざかった。
話を戻すが上の文で過去形なのは訳がある。
そうだな…せっかくだから話を聞いてもらうか。別にそんな良い話じゃないけど。
ちなみに今バレンタインデーが好きかどうかは…何とも言えない。
ただ言えるのは、これから話す去年のバレンタインデーは記憶喪失が起きない限り覚えているって事だけだ。

「幸樹~。渡す物があるから来な。」
「どうしたの?」
「ん?チョコレート。バレンタインデーでしょ今日は。」
「誰から?」
「私からよ。」
「な~んだ。」
「むっ。せっかく作ったんだから受け取りなさいよ。」
「作った?義理チョコをわざわざ作ったの?」
「は?義理じゃないわよ?」
「…はい?」
「いや、『はい?』じゃないから。いわゆる本命チョコ?」
「…今日は四月一日じゃないよ?」
「あんた私のこと馬鹿にしてるでしょ!?チョコ作ってんでしょうが!」
「いや、何で本命チョコ俺に渡してんの!?」
「あんたが好きだからに決まってるじゃない。」
「…自分の名前言ってみろ。」
「は?何でよ。」
「いいから!!」
「舞よ。」
「フルネームで…。」
「斉藤舞でしょ。さっきから何なの?」
「…あんたは俺の姉貴だろうがーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」

NOW LOADING しばらくお待ちください
「…つまり舞姉が言うことを信じれば、別に精神がおかしくなったからとか、俺をからかいたいとかじゃなく、そして弟としてではなく1人の男として俺のことが好きなんだな。」
「…やっと納得したわね。どれだけ説明させる気よ。」
「信じたくなかったんだよ!!」
こっちがどれだけショックを受けていると思っているのやら。
「まさかとは思うけど、俺と舞姉が義姉弟ってことはないよな。」
「そんなわけないじゃない。正真正銘の姉弟ですよ。…もしかして義姉弟って言ったら受け入れてくれ…」
「ええい!とにかくだ。俺は舞姉さんの愛を受け取ることは出来ない。」
「……分かってるわよ。さすがにここで『俺も愛してたよ舞姉!』とか言われる方が困るわよ。」
「チョコはありがたく貰うから。永遠に姉弟のままでいよう。」
「嫌よ。そんなにすぐに諦められるわけないじゃない。」
「…好きにしてよ。」
「ええ、好きにするから♪」

…というようなことがあった訳だ。
あれから半年経つがいまだに舞姉からアタックされてあしらっての繰り返しとなっている。
今の舞姉の厄介なところはあしらいすぎると変なことを考え出すことだ。
俺の『和服は綺麗だよな』という発言から簪まで付けた本格装備で誘惑しようとしたりもした。
中でも一番最悪だったのは、親がいないときだったとはいえ舞姉がいきなり癇癪を起こして、
『幸樹がどんな性癖でも私気にしないから!蝋燭でも鞭でも縄でもどんなものでも気にしないから!』
と叫ばれたときは本当にどうしようかと悩んだもんだよ。近所に聞かれてたら社会とお別れをしないといけないからな。
っと、愚痴にしては長すぎたかな。御清聴ありがとうございました。
ちなみに舞姉には絶対に言わないが舞姉があんなになって辟易する一方で楽しんでいる俺がいるのも事実だ。絶対に言うなよ?
さて、そろそろ舞姉が帰ってくる。今度はどんなことを言ってくるのやら。考えるだけで頭が痛くなりそうだ。
では、さようなら。暇が出来たらまた愚痴に付き合ってくれると嬉しいかな。

名前
件名
メッセージ
メールアドレス
URL
文字色
編集/削除キー (半角英数字のみで4~8文字)
プレビューする (投稿前に、内容をプレビューして確認できます)

Copyright © 1999- FC2, inc All Rights Reserved.