「三題噺」部屋

帯、昭和、住宅街 - Michiya

2010/05/26 (Wed) 21:07:14

第二十回のお題です。

祭りから外れて - Michiya

2010/06/01 (Tue) 22:59:36

 土曜日の夜、小さな地区の祭りがあり、私と親友は浴衣を着て参加した。
 浴衣を着て行くと綿菓子をおまけしてくれるのだ。
 私は綿菓子を頬張りながら夜道を歩く。
 親友は綿菓子が苦手なので、地区のおじちゃんに頼んでラムネ瓶に交換してもらった。
 カランカランというビー玉のまわる音がして、飲み終わったのだと分かる。
「ビー玉、取れないかなー。」
 親友はラムネ瓶をのぞき込むがうまいこといかないらしい。
「ちょっと貸して。」
 私は蓋を開き、ビー玉を取り出す。
 そんな私の姿をまじまじと見ながら親友は言った。
「真美ってさ、昭和のアイドルだったら売れそうだったのにね。」
「何ソレ。」
 突然親友に言われたのはこんな言葉だった。
「え?なんか昭和のアイドルって顔。平成のアイドルじゃないよ。」
「古くさいってこと?」
「まぁそうかなー。」
「…傷つくわよ。」
「大丈夫だよ。アイドルってことは美人ってことじゃん。」
 それも時代遅れのアイドルだが。
 私は親友を見る。
 彼女はあっけらかんと垢抜けない顔をしているが、磨けば綺麗になる。
 私が昭和のアイドルならこの子は平成のアイドルだ。
 正直、親友と言えどもこの言葉には傷つく。
「あー真美、帯が崩れてる。」
「え?ホント?」
「ちょっと直すね。」
 手先が器用な親友はちょっと私を脇へつれていってちょちょっと帯を直す。
 手際の良さはいいのだが、もっと他のところに生かせばいいのに、と思う時が多々ある。
 例えばこういう時。
 素直というか率直というか、飾り気がないというか。
 この子は思ったことをすぐに口にするから敵も多い。まぁ私も人のことは言えないけれど。
 帯を直し、親友は先を歩く。
「そういえば、お祭りってどこまでしてたっけ?」
 小さい地区のお祭りながらも商店街を長々と続いてやっているため思ったより距離が長い。
「この先の住宅街まで。」
「あともう少しで折り返しかー。ま、ラムネ貰ったし、いいか。いこ、真美。」
「えぇ。」
 私と親友はまたお祭りの輪に戻る。

あいつ - 加貝

2010/06/22 (Tue) 21:36:27

あいつが好きだ。
顔は昭和のアイドルどころか平成アイドル顔負けの整った顔立ち。
どんな授業でも真面目に受けて、休み時間にはいつも本を読んでいるあいつ。
ずっと寡黙なあいつ。
そのせいか皆には可愛いけど愛想がないって嫌われているけど。
それに下の名前が変わっているし。
だけど、本読んでいるときに時折見せる笑顔がすごく可愛くて。
俺こと和田真はそんなあいつ―松本××―が好きだった。

「真~。帰ろうぜ。」
こいつは庄野亮(しょうのあきら)。幼稚園からのいわゆる腐れ縁ってやつだ。
「先に帰っててくれ。やることあるから。」
「やる事って…またあいつかぁ?」
亮は首をすくめながら、
「やめとけって。あのお姫様は。お前の手に負える代物じゃないよ。」
「代物って…。」
「あいつがいつも図書室にいるからって理由で、高一の時に押し付けられた図書委員の仕事を高二になった今でも続けてる熱意は買うけどさ。」
「…うるせーよ。」
俺は図書委員だ。本読まないけど。というか嫌いだ。
そのせいなのか国語以外のテストは九割以上の俺が国語だけはひどい。
そして亮は国語だけは常に九十九点を取る。成績自体はWORST10にいつもいるのに。
「ま、好きにしろよ。俺は帰るぜ。」
亮は一応応援だけはしてやるよ、といいながら帰っていった。

「この本はこっちで…これは『黒帯の極意』ぃ?誰が書いてんだこんなの…。」
ただひたすら書架の整理をしている。
「こんな量終わるわけねぇ。いっそサボるか?イヤイヤしかし…。司書の人サボると後がうるせえしなあ…はぁ。」
「ねえ。」
「ん?って松本さん!?」
「なによ。私がいたらおかしい?」
「い、いや…。」
「あんた、和田でしょ?うちのクラスの。」
「そ、そうだけど…。」
「ちょっと教えなさい。」
「…何を?」
「数学」

「だから、点Oから辺ABに垂線を下ろすと内積がゼロだから…。」
「じゃ、これは?」
「それは間にAを挟んだらベクトルAPの方程式になるから、そっからは内分して求める。」
そういやそうだったはねぇといいながらシャーペンを動かす。
「しかし松本さんって結構喋るんだね。いつも全然喋らないから驚いたよ。」
「何それ。普通に喋るわよ。いつもは面倒くさいだけで。それにしてもあんた本当に勉強できるんだね。」
「国語以外ならね。」
「え?あんなの本読んどけば大丈夫じゃない。」
「…本が嫌いなんだ。」
「図書委員なのに?」
「図書委員なのにです。」
「…教えてあげよっか?お礼に。」
「へ?」
「国語だよ国語。」
「いいの?」
「うん。今日はもう遅いから明日からにしましょう。」
俺はドギマギしながらコクコクと頷いていた。
俺は顔がやっぱり可愛いな、なんて思ってしまった。

1人住宅街を歩く。頭の中は明日の勉強を教えてもらう事でいっぱいだ。
「やるで、俺はやったるでーーーーー!!!!!」
そんな決意を固めて、僕は家の中に入った。

懺悔日和 - 科挙

2010/07/08 (Thu) 20:57:27

天気は曇りで、今にも雨が降りそう。そんな中ぼんやり考える。
思えば今日で二十年の歳月が過ぎ去ろうとしています。
誰かが読むかもしれない。そんな淡い期待を持って懺悔致します。
…いえ、嘘を書くのはやめておきましょう。
ここならば誰も読まないだろうから、記します。
始めに申し上げますが、これを見る貴方のことは未来永劫、怨んで差し上げましょう。

さて、何の懺悔かと申しますと単純なことで彼女のことであります。
彼女の顔が醜い。それだけを理由に私は彼女を「標的」としました。
初めて言った彼女への台詞は今考えれば恐ろしいものでした。
「貴女の顔は醜いわね」
ついでに心の中で昭和美人には程遠く、平安美人のおたふくにすら劣るとまで付け加えて。
それに対する彼女の返答は
「そう」
だけでありました。
それからの彼女への仕打ちは書くことが出来ません。
嗚呼、懺悔をすると書いておきながらなんと醜い羞恥心でしょう!
しかし、しかし。書けぬのです。思い出すだけで手が震えてペンを落とすのです。私の羞恥心が、彼女への恐怖がそれを許さないのです!

続けます。
彼女へひどい仕打ちをし続けたまま半年が過ぎ、ようやく愚鈍な私は彼女に恐れ慄いたのです。
だって!だって!
半年間屈服し続けていたはずの彼女が放つ、あの視線!
私は、彼女が自分を高みから見下ろしているということにとうとう気づいたのです。
そしてある日、彼女は言いました。
「ねぇ、まだ終わらないのかしら?いい加減疲れてしまったわ」

私にとっての彼女へのいたぶりは、侵略は。彼女からすれば、私が行う児戯でした。
柔道場で借りただけの偽りの黒帯を締めて彼女を何度床に叩き伏せたでしょう。
彼女の家へ何度不良を送り込んだでしょう。
彼女は貞操を失った翌日もけろりと私に挨拶をしたというのに、その事に暗い悦びを覚えるだけの自分のなんと浅はかな事!
私は彼女を恐れました。そして私は。
閑散とした住宅街の道で、彼女をナイフで突き刺して。
死に至らしめたのです。

結局、私はその罪に問われることは一度もありませんでした。
しかしその時からずっと。そう、今日も私は彼女の末期の台詞に、表情に慄くのです。

「あら貴女。もうこのお遊びはお終い?次、何するの?」
彼女はただ、いつもと変わらぬ微笑みで私にそう言って
そのまま、倒れて

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